2007年01月28日

『切断の時代』概要

[概要]
 20世紀を通じて数多く制作されたコラージュの原理に基づく作品は、

異なる様々な構成要素の引用と組み合わせから成り、均質な空間を破壊する不連続性を
特徴とする。その意味において、コラージュを制作した芸術家たちは、断片化された世界

の経験を受け入れたと言える。
しかしながら、そうした芸術家たちは、脆く危ういとはいえ、そこに新たな統一性がもたら

される可能性を、まさに逡巡しながら見出したのではなかろうか。断片化と綜合という、
相反する極の間を絶え間なく揺れ動くコラージュは、造形芸術における単なる一技術上

の問題を越え、近代文明の認識そのものを問うパラダイムとなる。
 
 本書は、従来のように、コラージュの歴史を、芸術運動の「イズム」の展開に沿って

記述することが目的ではない。そもそも、コラージュに関わった芸術家の数があまりに
膨大であるゆえ、旧来の「通時的」な方法では、コラージュを制作した芸術家についての
短い要約を羅列するにとどまり、コラージュの機能そのものに関する体系的な視点が

浮かび上がってこない。
よって、本書では、コラージュの歴史を、「共時的」に三つのテーマ別に論じる。


 第一部では、まず理論的基礎として、コラージュの「受容」の歴史をたどることから

始めたい。
ルイ・アラゴン、クレメント・グリーンバーグ、ウィリアム・C・サイツら、コラージュに関する
批評の先駆者の示唆に富む分析を、適切に位置づけることが目的である。コラージュが
「イズム」のくびきから離れ、律性を獲得するのは、文学をも含む、豊穣な歴史的土壌に

おいてである。
フリードリヒ・シュレーゲル、ノヴァーリスといった、ドイツ・ロマン主義者の手になる

『断章』は、1800年頃すでに、相反しつつ補い合う、コラージュの二つの原理を

予告していた。
 
一つは「断片化」であり、いま一つは、ある種の全体性と普遍性――

理想的には「綜合芸術作品」――に至る可能性を秘めた、要素の「結合」である。
ロマン主義の時代から予言されていたのは、
近代以降避けがたくなる、断片化による喪失を埋め合わせるべく、統一性と全体性を

希求するという傾向が、そもそもコラージュに内在することであった。


 本書では、コラージュの受容を、フランスにおける批評とアメリカにおける批評に分けて

考察する。
二つの批評の文脈は、きわめて対照的であるとともに、互いに補い合っている。
敢えて単純化して言えば、フランスの批評は、コラージュを、絵画の自律性と闘うための

有効な切り札と考え、社会へ開かれたものとして捉えた。

フランスの批評家、とりわけアラゴンにとって、「レアリスム」の問題およびコラージュの

倫理的な次元こそが、コラージュの本質であり続けたのである。20世紀以前、
コラージュは、見したところの手軽さと、また種々雑多な貧しい素材が使われていた

ことから、ブリコラージュ(あり合わせの手仕事)か、素人の趣味の領域に追いやられていた。
せいぜい、コラージュは、遠近法による均質で連続したイリュージョン的な空間を表現

できない人、すなわち「絵が描けない人」のための表現手段としか見なされていなかった

のである。
 
しかしながら、それまで民衆芸術において専門的な技巧の欠如と見なされていたものが、
キュビスムのコラージュとともに、芸術的な行為に転化し、肯定的に見られるようになる。
このような価値の逆転が可能になったのは、一つにはコラージュを制作したのが今度は

人ではなく、ピカソやブラックといった「絵が描ける人」であったことであり、いま一つは
コラージュを称揚する言説が、このジャンルの芸術としての認知に、徐々にではあるが

少なからず貢献したからであった。
とりわけ、コラージュの草創期におけるフランスの批評では、コラージュの知的で

コンセプチュアルな側面が強調され、文学的なアプローチによってコラージュが
「読まれた」のであった。


 逆に、アメリカの批評は、コラージュの空間の問題に先鋭な目を向け、コラージュの

相反する二つの空間性を浮き彫りにする。
一つは、コラージュの平面性であり、いま一つは、「アッサンブラージュ」に向かい、
かつそれを越える、コラージュの空間の拡張である。グリーンバーグは、キュビスムの

コラージュについて最も的確かつ詳細に記述し、コラージュの平面性を明らかにした。
また、グリーンバーグは、アラゴンのようにコラージュを絵画に対立するものとしては

捉えず、むしろ自身の提唱する「モダニズム絵画」の系譜の中に組み込もうとする。

他方、サイツやアラン・カプローといった批評家は、戦後のアメリカの政治、経済、文化に

おける覇権に呼応する形の、コラージュの空間および概念の拡大化の潮流に乗る。
ただ、サイツやカプローには、この分野において先行したヨーロッパの貢献をアメリカの

文脈の中に取り込もうとする意図が顕著である。
コラージュの空間化におけるロシア構成主義の重要性をないがしろにするなど、
歴史的なパースペクティヴをいささか歪曲する傾向も否めない。


 第二部は、コラージュの制作における「切断」の問題を、具体的な作品例に即して

考察する。
このようなパースペクティヴにおいて、芸術家がいったん完成した作品を切り取り
(あるいは破り)、分割してできた断片を再構成するという、「破壊的‐創造的」方法によって

つくられる「分析的コラージュ」は、今まであまり知られておらず、とりわけ詳細な検討に値する。
 
ここでは、「分析的コラージュ」に分類されるものとして、作品の「修正」を目的とする

パウル・クレーの「分割コラージュ」、ジャン・アルプの「偶然の法則による」
パピエ・デシレ(「破られた紙」の意)、およびエルズワース・ケリーのフランス時代の

コラージュを考察の対象とする。
具体的な作品分析を通して、連続性と不連続性、求心性と遠心性という二項対立の間を

常に揺れ動く、分析的コラージュに特有な空間性が明らかになる。中央と端の入れ換え、

ずらし、「間」の挿入(クレー)、散種と接ぎ木(アルプ)、置換(ケリー)等である。
 
またこうした分析を通して、最終的には、一見して見えにくいものの、看過できない別の

次元も浮かび上がってくる。それは、分析的コラージュの「時間性」である。
このタイプのコラージュは、時の流れの中で、いったん解体され、また再構成されるという

プロセスを経ている。
この生成過程はアルケオロジックな観者のまなざしによって復元され、追体験されうる。
このようにして、コラージュは、「破壊的‐創造的」なプロセスという、その起源を顕わにするのである。


 第三部は、コラージュの分野における、「綜合芸術作品」を創造する試みを論ずる。

このコラージュの空間の拡張は、第二部で考察した断片化と対照をなしている。
そもそも平らな紙を貼り付けることによって、コラージュが平面性を強調する一方、

「アッサンブラージュ」と呼ばれるタイプのコラージュでは、逆の動きが顕在化する。
コラージュが現実の空間に物理的に侵入し、二次元平面の境界を越えてあふれ出す

のである。
コラージュの「結合」の原理が、品の中にあまたの異質な要素を包括することを可能にしたと言える。
 
ここでは、クルト・シュヴィッタースのメルツバウ(メルツ建築)において、コラージュの

空間化がどのように押し進められたかを分析する。
メルツバウは、ハノーファーのシュヴィッタースのアトリエ兼住居を徐々に変容させた
ものである。シュヴィッタースが集めた廃物やがらくたの類のオブジェ等で空間は

絶え間なく変貌し、「キュビスム的かつゴシック的な」迷宮のような層状の構築物が出現する。
このようにして「開かれた」コラージュは、「綜合芸術作品」を目指すのである。


 本書の最終章では、シュヴィッタースの後継者の一人とも見なされている

ロバート・ラウシェンバーグのグローバルな試みを検討する。しかしながら、
ラウシェンバーグの歩みは、作品のスケールの大きさの違いにおいてだけでなく、

創造の様態においてもヨーロッパの先駆者とは明らかに異なっている。
メルツバウにおける複雑に入り組んだ「構成」が、構成要素の増殖拡張と新たな枠の

設定という弁証法的関係の上に成り立っていたのに対し、ラウシェンバーグの場合、
枠を取り払った、際限のないイメージの「並置」へと、パラダイムが転換しているのである。
 
 
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posted by makomoto at 21:30 | TrackBack(1) | 書籍紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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